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EMDRとは?効果的なメカニズムと治療のステップを専門家が解説

2025年12月2日

「過去の嫌な記憶がフラッシュバックしてつらい」
「特定の場面になると、動悸やパニックが起きてしまう」
「カウンセリングで何度も辛い話をしたが、苦しさが変わらない」
もしあなたがこのようなお悩みをお持ちなら、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)という心理療法が、解決の糸口になるかもしれません。
EMDRは、世界保健機関(WHO)もPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療法として推奨している、科学的に効果が認められたアプローチです。
この記事では、トラウマ治療を専門とするBondiaの臨床心理士が、EMDRの仕組みや具体的な治療の流れについて、分かりやすく解説します。



①EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)とは?
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)は、1989年にアメリカのフランシーン・シャピロ博士によって開発された心理療法です。
最大の特徴は、トラウマとなる記憶を想起しながら、「眼球運動(目を左右に動かす)」や「両側性刺激(左右交互のタッピングや音)」を行うことです。これにより、脳の情報処理機能を活性化させ、トラウマによる苦痛を和らげていきます。
薬物療法に頼らず、人間が本来持っている「脳の自然治癒力」を引き出す方法として、世界中の医療現場やカウンセリングルームで導入されています。


②なぜ効果があるの?EMDRのメカニズム
「目を動かすだけで、なぜトラウマが癒えるの?」と不思議に思われるかもしれません。その仕組みは、脳の「情報処理システム」と深く関係しています。

トラウマは「冷凍保存」された記憶
通常、私たちが日常で経験した出来事は、脳内で整理され、「過去の思い出」として適切に保管されます。嫌なことがあっても、時間が経てば「あんなこともあったな」と思えるようになるのはこのためです。
しかし、命の危険を感じるような衝撃的な体験や、長期間にわたる虐待などのトラウマ体験をすると、脳の処理能力が追いつかなくなります。すると、その記憶は当時の恐怖や痛み、身体感覚を伴ったまま、脳内に「冷凍保存」されてしまいます。
これが、何かのきっかけで解凍され、当時の恐怖が昨日のことのように蘇る(フラッシュバック)原因です。

脳の処理機能を「再起動」させる
EMDRで行う眼球運動や両側性刺激は、睡眠中の「レム睡眠(夢を見ている時の眼球運動)」と同じような脳の状態を作り出すと考えられています。
この刺激を与えることで、冷凍保存されていた記憶の「再処理」が始まります。脳が活発に動き出し、トラウマ記憶が他の健康な記憶と結びつけられ「現在はもう安全である」「これは終わった過去の出来事だ」として消化されていくのです。
結果として、記憶自体が消えるわけではありませんが、思い出した時の激しい動悸や恐怖感、身体の緊張といった苦痛が大幅に軽減されます。


③実際の治療の流れ:8つのステップ
EMDRは、単に目を動かすだけではありません。安全かつ効果的に進めるために、以下の8段階の標準的プロトコル(手順)に沿って行われます。

1. 病歴聴取と治療計画
現在のお困りごとやこれまでの背景をお伺いし、治療のターゲットとなる記憶を特定します。

2. 準備(リソースの構築)
いきなりつらい記憶に向き合うことはしません。まずは、安心して治療に取り組めるよう、リラクゼーション法や、心が落ち着く「安全な場所」のイメージ作りを行います。ご自身で感情をコントロールできる状態を作ることが最優先です。

3. アセスメント
ターゲットとする記憶について、その時の「映像」「否定的な思い込み(私はダメだ、など)」「感情」「身体感覚」などを確認します。

4. 脱感作(再処理)
ここからがEMDRの中心的なワークです。記憶をイメージしながら、セラピストの誘導に合わせて眼球運動やタッピング(両側性刺激)を行います。脳内での情報処理が進み、苦痛度が下がるまで繰り返します。

5. インストール(植え込み)
苦痛が十分に下がったら、「私はダメだ」といった否定的な思い込みを、「私は最善を尽くした」「私は安全だ」といった肯定的な認識に書き換えていきます。

6. ボディ・スキャン
身体の感覚に注意を向け、緊張や違和感が残っていないかを確認し、完全にクリアになるよう処理します。

7. 終結
セッションを振り返り、心が落ち着いた状態で終了できるよう整えます。

8. 再評価
次回のセッション冒頭で、前回の治療効果が持続しているかを確認し、次のステップへ進みます。


④従来のカウンセリングとの違いとメリット
EMDRには、従来の「対話によるカウンセリング」と比較して、以下のようなメリットがあります。
• 詳細を話さなくて良い: つらい体験を細部まで言葉にして説明する必要がありません。そのため、話すことで傷つき直す「再トラウマ化」のリスクを抑えられます。
• 短期間での改善が期待できる: 脳の処理機能を直接刺激するため、比較的早い

段階で症状の変化を感じられるケースが多いです。
• 身体感覚も楽になる: こころだけでなく、トラウマに伴う「身体の強張り」や「神経の過敏さ」も同時に解放されやすくなります。


⑤Bondiaでのトラウマケアについて
Bondiaには、EMDRの正規トレーニングを修了した臨床心理士・公認心理師が在籍しています。
私たちは、単にEMDRの手順をなぞるだけではありません。
トラウマによる身体反応へのアプローチであるBCT(ボディ・コネクト・セラピー)や、自己調整力を高めるアプローチも統合し、お一人おひとりの「こころとからだ」の状態に合わせたオーダーメイドの治療を提供しています。
「私の悩みにもEMDRは効くのかな?」
「まずは話を聞いてほしい」
そう思われた方は、ぜひ一度ご相談ください。あなたが安心して過去を乗り越え、自分らしい人生を取り戻すお手伝いをさせていただきます。